Justin Tyson(ジャスティン・タイソン)がR+R=NOWインタビューで語っていること

drums

Justin Tysonとは

NYで話題のドラマー

ジャスティン・タイソンは近年注目されているドラマー。
Google検索にも、日本語のスニペットが表示されるあたり、
日本でも彼を知っている人は増えている様子。

まず彼の映像資料を時系列で並べると、
ルーツはゴスペルで、ジャズを経由して今に至っていると読み取れる。
彼のプレイからバシバシ薫ってくるあの感じからして、
この仮説はあながち間違いではない気がする。

彼らしい叩きっぷり

ゴスペルドラマー特有の、
「素早く強力なダウンストローク」
「明瞭な粒立ちと大量の音数」
あとシンバルを思いきりぶん殴る感じ。

ジャズドラマー特有の、
ジャズの曲形式を呼吸するようにこなして、
少ないセットアップ、ハイハットをクラッシュとして使う感じ。
そして縦ノリに終始しない柔軟なフレーズ。

僕が彼に一目惚れしたのは、彼がロバート・グラスパー・エクスペリメントで、Billboardに来日した時。
豪快かつクールなフレーズを、次々と刻み込んでいく。
誰とも違っていた。まさに開いた口が塞がらなかった。

大好きなドラマーは数多くいるが、あえて一人選べと言われたら、
僕は「ジャスティン・タイソン」と答える。つまり世界一好きだ。

とにかく情報が少ない

今やどんな情報も手に入るのに、ジャスティン・タイソンの情報だけはネットから欠落している。

彼が参加しているのは、Herbie Hancock、
Esperanza Spalding、NOW VS NOW、
Robert Glasper Experiment、R+R=NOW、
そしてDerrick Hodgeのプロジェクトにも参加している。

ファンが彼のライブ映像を撮影した映像は、そこそこヒットする。
しかしそれ以外の情報がほとんどない。

彼はInstagramもしていない。
Instagramが開設されているのをドラマー松浦千昇さんが教えてくれた。(感謝)

そんな彼が唯一彼自身の口で、彼自身のことについて語っている動画がある。

この動画内で話している内容を全て解説

  • 文字起こし全文
  • セットアップについて
    • ドラムキット
    • シンバル
    • 彼の楽器の少なさ
    • 少ないセットが好き
  • 重要なのはキックとスネア
  • タムのボトムヘッド
  • キット全体の音作り
  • モニター環境

文字起こし全文

I’m just kind of trying to my setup tends to change throughout the course of playing a tour.
Usually I start off with a lot of drums,
it usually ends up being too many drums for what the music requires.
I like to play less drums because it forced me to be more creative. Like,
I have to access a more like a different space in my brain and my creative process.
If I don’t have a lot of drums to rely on, which is cool.
I guess I’m just kind of experimenting right now.
This is the first time I played this actual,
this particular set up with this over here.
And I’m just kind of trying to sit out. I like this.

This is a HHX evolution SABIAN. I like it because it’s loud, And it’s Washy, it’s dark.
And I’m actually playing a 22 inch stack. This is a Vanguard.
and a 20 inch HHX extreme crash that I have stacked and it sounds pretty cool.
And then I’m playing the 17 inch prototypes, I mean prototypes that aren’t out yet.
But I’ve been playing these since I’ve started playing with SABIAN.

I guess the core pieces is the bass drum, and the snare.
If those two are in decent shape, and I can tune more way I like them.
and everything else is kind of secondary.
Especially the snare because that’s kind of my sound, really the core of my sound.
Everything else revolves around that. 

Well, on this gig, I’m playing with no bottom heads on the drums.
I saw my friend do it, I just stole it. 
I just copied it from I said old school thing and it’s easier to tune the drums.
Because you don’t really have to tune the drums. Just the sound is there.

I like the drums to kind of complement how they bass drum sound.
there’s not a lot of ring not a lot of overtones.
if I’m playing a lot of notes, I don’t want a lot of bleed over to the next note.
I mean, because I tend to play a lot of notes from time whatever.
So it’s quick gets out the way so I can move on to the next note.

I don’t want any drums my wedges ever. I hate hearing myself, Mike,
it kind of takes away from the organic nature of the drum set.
It’s like this artificial sound is coming through the monitor, you know me,
so I don’t really like any drums in my monitors.
But I guess I like to hear a lot of bass and an equal amount of keys,
depending on situation but definitely bass, and bass.

セットアップについて

冒頭で「ツアーの過程で、セットアップが変わる傾向がある」と語られている。
確かにランダム生成かと思うぐらい、楽器、位置、角度、何もかも変更されている。
彼曰く「ちょっとした実験をしていると思う」とのこと。
この動画内で組まれているセットアップも、今回初めて叩いたらしい。

「特定のセットアップがここにあって、自分はただ黙って見ているようなものだ」
どうやら、演奏環境の最適化を求めて積極的に変えている、というわけではないようだ。

セットアップが実験的にコロコロ変わることをある種楽しんでいて、
それによって生まれるインスピレーションを尊重しているのではないだろうか。
いずれにせよ、どんな配置でも軽々叩けるのは、彼にとっては当たり前のことのようだ。

ドラムキット

ドラムキットはCANOPUS YAIBA Groove Kit、ブラックスパークル。
ちなみに動画内の白いドラムについては特に言及されていない。

カノウプス側から彼にアプローチし、YAIBAを提案したのがきっかけらしい。
それ以来、彼はYAIBAを非常に気に入ってツアーでいつも使っている。
この辺りはカノウプス公式に詳しく書かれているので、チェックして欲しい。
CANOPUS Times “エスペランサの相棒、ジャスティン・タイソンがヤバい!”

完全に余談だが、スティービーワンダーもこのキットを一番気に入ったらしい。
このバーチキット特有のショートディケイが、
オールドスクールかつタイトな粒立ちを体現しているようだ。欲しい。

シンバル

シンバルはSABIANを使っていて、この動画内でも詳しく紹介されている。
18 HHX evolution O-zone crash は特に気に入っているようで、ほとんどいつも使っている。

22 HH Vanguard Ride はスタックのボトム側に使っているそう。
このスタックも、セットアップの右側、左側と場所を変えながら頻繁に登場している。
20 HHX extreme crash は同スタックのトップに使用。
製品ラインナップに20インチは存在せず、カスタムオーダー品のみ現存する。入手は難しい。

この動画では最後に17インチのハイハットが紹介されている。
このハットも彼のトレードマークであり、存在感を放っている。
動画では「これはプロトタイプで、まだ世に出ていない」と語られている。
彼がセイビアンとエンドースを結んでからずっと使っているという、お気に入りのペアだ。

彼のセットの楽器の少なさ

「普段たくさんドラムがある状態から始めるけど、いつも結局、音楽が必要とするものに対してドラムが多すぎることになる」と彼は話している。

ジャスティンタイソンはハービーハンコックとのライブで、ラックタムx2、フロアタムx2で構成されるオーソドックスな形の多点キットを演奏している。

つまり彼が多点キットを避けているわけでもないし、もちろん容易に使いこなせるし、自分の少数セットアップにあえて拘ってはいないことを意味している。

自分のために演奏スタイルに拘っていることはなく、あくまでもその時々で音楽に求められることを大切にしているのだ。そんな中でも、少数のキットが彼のお気に入りらしい。

少ないセットで演奏するのが好き

「ドラムを少なくするのが好きだ。それが自分をより創造的にさせるから」
「頼りにできるドラムがあまりないのなら、それはクールだ」

実はこれ、マーク・ジュリアナも全く同じ趣旨のことを言っている。ようは、使える楽器が少ないという制限の中で、どうやって工夫してやろうか。とアイデアが湧き出てくるという。

ジャスティン・タイソンは「自分の脳と自分の創造的なプロセスの別の空間にアクセスする必要がある」とも述べている。彼のようにジャズをルーツに持っているドラマーは、やはり演奏中に即興を生み出す主義を持っているように思う。

重要なのはキックとスネア

彼のキットは、決して突飛なキャラではないが特徴的。特にスネアは快感。
甘くふくよかなボディトーンがありながら、非常に鋭くタイト。
はっきり抜けて主張するけど、聴き疲れしない。

「コアピースはバスドラムとスネアだと思う」
「これら(キックとスネア)が適切なシェイプで、自分でそれらを好きなようにもっと調整できる場合なら」
生粋のジャズドラマーなら、ここはライドとハイハットとでも答えていただろうか。

さらに「そして他のすべてはある種、二の次でさえある」と話しており、
これは少ない荷物で飛び回る、NYのセッションドラマー的な発想であると感じる。
環境は様々なので、こだわる範囲を限定して一定のクオリティを目指す。
完璧主義になりがちな私は、ぜひ見習いたいポイントだ。

「特にスネアは私のサウンドの一種であり、本当に自分のサウンドの核心だ」
「他のすべてはそれを中心に展開する」
つまり彼にとってスネアが最も重要。続いてキック、そしてタムその他。
キックやタムについては後述する。

タムのボトムヘッドについて

彼はほとんどの場合、12インチタムのボトムヘッドを外して演奏している。
「友人がそうしているのを見て、盗んだだけ」
「私はただ、そういうオールドスクールなものからコピーしただけで、そしてドラムのチューニングが簡単だ」

ボトムヘッドを外したメロディックなタムが
日本では70年代に流行したらしいが、それとはやや文脈が異なる。

シングルヘッドは、通常のタムに比べて響きが弱くなる。
オールドファンクやレゲエの音源で聞かれる音質、
いわゆる「オールドスクールな音」に近くなる。

特に「チューニングをする必要がない」というところを強調していて、
これは12インチタムのチューニングに時間を割きたくない
という考えの現れではないかと私は考える。

キット全体の音作りについて

「ドラムがバスドラムの音を補完するようなものが好きだ」
どういうことか。つまり「余韻が多くなく、倍音も多くない」
というドラムの音が好きだということだ。

「たくさんのノートを演奏している場合、次のノートに多くの”カブり”をかけたくない」
(”bleed over”を”次のノートに音が被ること”としている)
音数が多いので、一音一音をはっきりと分離させることが必要ということだ。

「私はたくさんのノートを演奏する傾向がある」
「だから、邪魔にならないから、すぐ次のノートに進むことができる」
人類トップクラスの音数を叩き出す彼が、
自分ってたくさん弾きがちなんだよねと、さらっと発言しているのが面白い。

ラックタムもそうだが、フロアタムも強いミュートがかけられており、
ブーミーな余韻はゼロに等しい。彼の特徴の代表的な部分だ。

モニターについて

「モニター越しのドラムの音を聞くのが嫌いだ」
「マイク越しでは、ドラムセットの有機的な性質を損なうようなものだ」
「まるで人工的な音がモニターから聞こえてくるようだ」

彼の音作りだけをみると、人工的な音に影響されているように思うが、
あくまでもアコースティックな楽器の響きを大切にしているようだ。
ゴスペル、ジャズなど、生音主義の文化が大きく影響しているのだろう。

「私はたくさんのベースと、それと同量のキーボードをモニターするのが好きだと思う」
「状況によるけど、間違いなくベースと、、ベースを聞いている。笑」

最後はこのように締めくくられる。
モニター環境について少し触れているが、ドラムとベースとキーボードという
ジャズトリオ3点セットをしっかりモニターに返すのがお好みのようだ。

とはいえ時と場合によるが、間違いなくベースは聞いているという。
最後に笑っているのは、ベースの他に何かあるかな、、と思ったけど
結局ベースしか思い浮かばなかったようだ。笑

数少ない情報の一つとして

近年注目されていて、特に日本語の情報がほとんどない現在において、
数少ないジャスティン・タイソンについての日本語情報になれば嬉しい。

自分のスタイルを見つけるために

このインタビューで語られていることは、正直なところかなり表面的な部分だ。
真似られる部分は、ラックタムのボトムヘッドを外すことくらいだろう。
長期的な話になってしまうが、あらゆる視点から情報を入れることで、
自分のドラミングスタイルを少しづつ形作っていく手助けになるはずだ。